リペイントの工程は以下の通りです。
(1)素材の研究
最初に対象物の魅力をよく理解します。動画を一通り鑑賞する場合もあります。
(2)リペイントの彩色、方針決定
素材の魅力を引き出すために最も良い手段を検討し、彩色などの方針を決めます。
パッケージに印刷されている見本写真は大変よく出来ています。中身の量産品はこれより数段劣るのが普通です。リペイントでは少なくとも見本写真までクオリティを引き上げ、その延長でさらに上を目指します。方針はこちらも参照ください。
(3)分解
無理をせずに分解できるところまで分解します。ヤフオクの出品作品ではより完全な塗装をするため接着部の分解を試みる場合がありますが、永久変形や破損リスクを伴います。依頼の場合はこのようなリスクを避け無理な分解はしない範囲で製作します。
(4)問題の修正
PVCの素材は熱成型して作られる関係上、多少なりとも変形や歪がのこっています。写真の素材は水平な台の上に設置した例ですが、かなり後傾しています。
このように仮組みを行い、自立するか、台座に対して垂直か、変形がないかなどをチェックし、問題があれば加熱整形で直します。台座との結合部のところで傾き修整する場合もあり、この場合は裏からビス止めになります。
量産品では様々な問題が見つかります。目立つパーティングライン(成形時に出来る筋状の出っ張り)、汚れ、塗料の削れ、接着剤のはみ出し、塗料カスの付着など、元々ある素材の問題を修正していきます。
汚れが見つかった場合はルーペや顕微鏡で正体を確認し、対処法を検討します。
パーティングラインや塗料カス、はみ出した接着剤などはリューターで削り取りペーパー仕上げします。これをやっておかないとスミイレやウオッシングで目立つ結果になります。
PVCのような軟素材では切削痕が残り、綺麗に仕上がりませんが、出来るかぎり目立たないように直します。
部品の継ぎ目に不自然な溝がある場合はパテ埋めします。この問題は頭に多く見らます。
(5)素材の洗浄
離型剤や指紋、切削くずなどを中性洗剤を使ってよく擦り落とします。写真は洗い上げが終わった素材。
(6)プライマー処理
表面がつるつるの部分は塗料がはがれ易いため、あらかじめプライマー処理を行います。プライマーは2種類を使い分けています。
(7)塗装
陰影はトップシャドウ-シャドウ-素材色-ハイライト-トップハイライトの5段階を付与します。深い溝部分にはスミイレで立体感を強調します。
年季の入った質感を作るためウエザリング&ウオッシングを行います。
肌塗装は特別に調色した7種類の塗料を使い分けています。光と影、肌の日焼けを考慮したベストな塗装を行います。肌の塗装は最も気を使う作業ですので疲れがなく気力が充実した時に行います。
浮き出した血管やダメージエフェクトなど、必要に応じて追加します。
最後にトップコートを行います。塗膜の補強と質感調整の2層コートします。
写真は肌以外の塗装が概ね終わった状態。この状態ではまだ、髪の毛のトップハイライトが強く、ピンクの部分の彩度が若干高いように感じます。この後も色調を納得いくまで調整していきます。
ArtDesign作品の気品と質感はこのような作者の感性に基づく妥協のない調整の結果から生まれます。
(色調の調整は色温度5000K 昼白色の光源を基準にしています)
必要に応じて顔の修正を行います。DXエースのように瞳を追加するだけの場合もあれば、全部書き直しを行うこともあります。
写真はRWBY ROSEの顔を書き直しているところ。ホワイトベタからスタートしてイラストを参考に慎重に、クリアーで定着させながら重ね塗りしていきます。写真は眉毛を書く前段階のものです。
(8)組立・最終調整
組み立てながら全体の色調、ツヤの最終調整を行います。いろんな方向から光を当てて彩度、明度、陰影のバランスをみます。
テスト撮影してPCの画面で見て気づくところもあります。日を置くと気になるところも出てきます。これらをすべて修正していきます。終わったらパーツを接着して完成となります。
(9)作者銘シール貼付・完成
「Sozouno-yakata ArtDesign」と日付を記した小さなシールを台座の裏など目立たないところに貼り付けます。シールには特殊な樹脂加工がされており最初白色ですが年月と共に褐色に変色していきます。作品の出来栄えによっては貼らない場合もあります。特定の銘作に関してはシリアル番号が発行され、シールに併記されます。(銘作は現在、DXエース、ゴーイングメリー号のみです)
写真は完成作品の例です。
(10)アセンブリ
アクリルケースや台座をご注文いただいた場合は穴あけとアセンブリを行います。本体は台座の裏からビス止めする形になります。写真は背面がミラーになっている高級ケースです。
ケース内部が密閉され可塑剤がこもるのを防ぐために側面の目立たない位置に換気穴加工を行います(写真のケースでは左上と右下に小さな換気穴を空けています)。
ネームプレートが付けられそうな場合は製作を行います。ネームプレートは元箱から切り取った印刷物を水につけて表層を剥がし、乾燥、樹脂含侵、塗装仕上の工程を経て完成となります。
(11)写真撮影
完成品を写真撮影して依頼者にお送りしてご確認いただきます。現物に近い色調を出すためRAWで撮りますが、現物に近い色調は出せても質感までは写りません。本物の良さは現物を見てのお楽しみになります。
(2015/3月から専用の撮影ブースを設置し、写真のクオリティが向上しました)
(12)梱包&発送
衝撃緩衝に優れた新聞紙を隙間埋めに使って梱包発送します。ダンボールは本来、綺麗なものを使いたいところですが、今のところ再利用品が主体です。梱包に関してはこちらの記事もご参照ください。
<リペイントの道具>
エアーブラシ
精密塗装に欠かせないエアーブラシ。この良し悪しが仕上がりを大きく左右します。私はプロコンBOY FWAプラチナ ダブルアクションタイプを使用しています
コンプレッサー コンプレッサーは圧力タンク付きを。間欠動作になって音が静かで省エネに寄与します
インティングブース(排気装置)
必ずツインファンのものを。私はタミヤのペインティングブースIIに次の隙間ノズルをつけて窓から排気しています。購入したらフィルタをステンレスタワシに置き換えてメンテナンスフリーにしています
タミヤ モデリングブラシ PRO 顔などの精密塗装に欠かせない面相筆。弘法筆を選ばずなんてことはありません。良い仕事は良い道具から生まれます。これは毛先が開かない大変使いやすい商品
フィニッシュマスター はみ出した塗料の拭き取りに威力を発揮する必需品。これなしで精密描画はありえません
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